すっかりマスク生活やリモートが定着したこの1年、日々の栄養指導の現場においてウイルスへの不安をはじめ、生活環境の変化などで、健康状態に不安を感じている人が多くみられます。
「免疫革命」をはじめ、免疫に関する沢山の本を出された免疫学の権威、故安保徹先生は、数々の講演や著書の中で、免疫力が下がる原因、そして癌などの病気の原因のほとんどは次の2つだと明言されています。
- 低酸素
- 低体温
そして上記を改善して免疫力を上げるポイントは、
1、呼吸
2、食事
3、生き方
の3点を正すことであると断言されました。
今回はこの3点について、管理栄養士である私が実践していることを交えてご紹介します。
【呼吸が浅くなる原因は姿勢と運動不足】
まず1つめの低酸素についてですが、現代社会ではマスク生活が義務のようになっていることから、呼吸が浅く、マスク内で自分の呼気を再吸入することから新鮮な空気がたっぷりと入ってこないということが新たな問題点としてあげられます。
薬膳のベースとなる中国伝統医学(以下、中医学)では後天の気(生まれてから自分で作りだす生命エネルギー)は「飲食物+空気」から作られるとされています。
食事(陰)と呼吸(陽)の2本柱が生命エネルギーの基本ということです。
過酷な生き方やストレスにさらされた生活を送っていると自律神経優位の過緊張の状態が長期間続くことになります。緊張して手に汗握るような状況で呼吸が浅くなるという経験をされた方も多いのではないでしょうか。それが無意識に日常になっている状態です。
しっかりと深い呼吸をするためには沢山の筋肉を使う必要があります。
「腹式呼吸」という言葉があることで、お腹に意識を向けた呼吸に注目されがちですが、呼吸は全身で行う「全身呼吸」と言えます。筋力の低下がひどい人は呼吸筋が使えず、サブの呼吸筋を酷使して何とか肩で頑張って呼吸をしています。もっとひどくなると苦しくて湯舟に肩までつかれなくなります。
呼吸は足でしっかり地面をつかみ、地のエネルギーを体全体に取り込み、頭のてっぺんに放つ作業ですので、しっかり肉体を支える筋力が必要です。骨格のゆがみなども呼吸を浅くしてしまいます。からだのゆがみの確認もしておくことも大切です。
また、リモートワークなどでパソコンやタブレットに向かう時間が多いと、どうしても画面に向かって話したり、普段の業務用のデスクとは違うなどで姿勢が前かがみになりがちです。猫背であごが上がるような姿勢も呼吸が浅くなります。
悪い姿勢はどんどん呼吸が浅くなり、話し声も不明瞭にぼそぼそ、ごにょごにょと画面の向こうのお相手にきちんと声が届かなくなります。実際オンライン上で聞き取るのに一苦労する話し声の人も急増中です。印象も悪くなるので損しかありません。
さらに口の両端だけを上げて「口角を上げる」と勘違いしている人が多いですが、頭ごと筋肉が動いていないと不自然な作り笑いになりますので注意しましょう。
これらはリモート社会の新たな課題と言えるでしょう。時間を決めてストレッチや呼吸を取り込むよう心がけてください。
リモートのもう一つの問題点は運動不足もあげられます。
運動不足になると筋力低下が進み、さらに呼吸が浅くなります。呼吸だけでなく肥満をはじめとした生活習慣病などの心配もプラスされます。心拍数と呼吸は比例しますので適度な運動を取り入れてください。
ミュージカル俳優やオペラ歌手などのプロは、重心がしっかりと立ち、鍛え上げたしなやかな筋力と柔軟性があるからこそ、声帯を傷つけないのびやかな声を観客に届けることができるのです。
【酸素が足りないと起こること】
呼吸が浅くて酸欠になることで、様々な不具合が現れてきます。
□浅い呼吸は交感神経(戦闘モード、緊張)を刺激するので気持ちが落ち着かなくなる。
□集中力・認知力の低下
□めまい、頭痛
□視力低下
□肩こり、腰痛
□不眠・睡眠が浅い
などなど、心身ともに悪影響を与えます。これではいくら食事に気を使っていても免疫力は上がりません。
【呼吸を整えると得られるメリット】
肉体に酸素がしっかり入ると、副交感神経(リラックス、ゆるみ)が働き始めるので先述の不調が改善されます。
そのうえ、正しいトレーニングで呼吸法を行うことで肉体のゆがみが改善したり美容効果に免疫力アップにと、一石二鳥三鳥、それ以上の嬉しい効果が期待できます。
呼吸法では自分の呼吸圧を使って内側からじんわりと筋肉を広げていくので、無理なく筋肉を動かすことができます。普段筋肉がカチカチの人は、トレーニングを重ねるうちに固まっていた部分が「ミシッ」「パキッ」と鳴り、まるで氷の解け始めのような体験をするでしょう。ここからがやっと酸素を受け入れる準備がスタートしたともいえます。
普段酸欠で生きている人は、最初はあたまがクラクラしたり、ぐったり疲れてしまうかも知れませんが、今まで求めていた酸素がずっと来なくて動けなかった細胞たちが、酸素を得たことでついに動き始めることができた証拠です。
あきらめないで継続することが大切です。肉体は元の状態に戻ろう戻ろうとしますので、意識的に酸素がある状態を身体に提供し続けて記憶させてください。
血行も改善されるので冷えやコリが解消されたり肌つやがアップするのは想像しやすいかもしれませんが、呼吸法はからだのゆがみを解消してくれる「整体」でもあるのです。
私はこのトレーニングを「ボイトレ整体」と名付け、先生について定期的にメンテナンスしています。何よりも、正しい知識と技術をもった先生から指導を受けることが大事です。
呼吸は恐怖を感じると浅くなりますので、ニュースに怖がり過ぎないことやストレスフルにならないうちに解消することも大切です。
安保徹先生は免疫力を上げる即効策について聞かれたときに真っ先に「呼吸」と回答されました。ぜひこの機に呼吸について考え、楽しんで取り組んでください。
【現代人は栄養失調が多い?】
次に2の食事についてです。
最近は様々な健康法やサプリメントなどの情報に溢れており、いろんな人が色んなことを言い、何を信じてどれを聞けばいいか分からないという人も少なくありません。
中には両手いっぱいのサプリメントを使用し、もはや精神安定剤としての効用しかないのではないかと思う人もいます。
栄養指導の現場で血液検査のデータを見ていると、この飽食の時代に栄養失調の人がなんと6~7割います。これは実際に1日何名見た中で何名が栄養失調だったという私個人で収集したデータですので、どこを調べても検索はできない数値ですが事実です。
健診で問題なし、と言われた数値でも分子栄養学的に分析すると栄養状態は比較的簡単に推測できます。
食事は自律神経と深い関係があり、消化機能は副交感神経の働きで行われことから、食事をするという行為がストレスを解消し、自律神経を整える効果があります。
ストレスで過食になったり、食欲のコントロールが乱れる人は、自律神経の乱れも理由の一つにあります。
そしてストレスフルな人は、糖質ばかりの食事や間食をとる傾向にあります。これはストレスを受け続けることで脳が疲労してしまい、上手にホルモンを出す指示が出せず、血糖を上げるホルモンが出せないことで低血糖を起こしてしまうことが主な要因です。これは副腎疲労という表現で知られていますが、実際はこころから発生するホルモン不足と言えます。
自分は糖尿病とは無縁だという人でも、糖質に偏った食事を続けていると、糖質をエネルギーに変えるための栄養素が不足し、炎症体質を加速させます。
効率よくエネルギーに変えられないので「食べているのに」細胞はお腹がすいた状態になります。糖質・脂質・タンパク質の三大栄養素と呼ばれる栄養素のなかで、最もスピーディーにエネルギーになってくれるのが糖質です。
なので、つい甘いものを食べてしまう、カフェインがやめられない人は低血糖を疑ってください。
低血糖は人にとっては危機状態です。
交感神経が働きすぎて、血流の低下や手に汗かいたりと、戦闘態勢の状態です。寝ていても戦闘態勢、これでは免疫力は下がる一方です。
食いしばりやイライラ、鬱っぽい、寝起きから疲れているなどという症状が出ている方は、管理栄養士などの専門家に相談をし、早急に対処しましょう。血糖の乱れがあると体内の炎症も改善できません。
【まずはおばあちゃんのごはん】
では、自分でできる免疫力アップの食事とはどういうものでしょうか。
まずは過剰な糖質や悪い油を控え、ビタミン・ミネラル・食物繊維をしっかり摂ることです。
「雑穀米に味噌汁、肉魚料理、野菜、ぬか漬け」などの定食スタイルはバランスが取りやすいですね。
色んなサプリメントや健康食品に頼る前に、いったん立ち止まってシンプルに見直してください。どんな高価な健康食品も旬の食べ物の生命エネルギーにはかないません。
コンビニ食やファストフードは食中毒の心配がない分、添加物が大量に使用されています。添加物の多くはミネラルの吸収を阻害しますので、食べれば食べるほど栄養失調になります。たまには問題ありませんが頻繁に利用するのは控えてください。
お料理の習慣のない人は、まずはご飯を炊いてみる、本物の調味料にこだわってみる、具沢山のお味噌汁を作ってみる、昔ながらの梅干しを買ってみる。そんなことから始めましょう。
シンプルな梅干しおにぎりと味噌汁だけでも十分からだは喜び、こころ癒されるでしょう。
少しずつお料理に慣れてきたら「薬膳を習ってみよう!」などとステップアップし、どんどんレパートリーを増やしながら免疫力を上げていきましょう。
ストイックにこだわりすぎる必要はありませんし、カロリー計算もいりません。
いったん使用している健康食品や食生活全般を見直し、自然からの恵みを取り入れる意識をするだけです。
「薬膳」は禁止されている飲食物はありません。
時々精進料理と混合される人もいますが、お酒もお茶、肉魚などの動物も何でもOKです。季節や体調、地域などに合わせて食材を選ぶ「ひとと食の相性診断」とも言えます。
現代栄養学との相互性もいいので、治療食や制限食のある人でも食事管理がしやすい分野です。強力な抗酸化作用のあるクコの実だけでも使いこなせたらぐんと食卓が豊かになります。
私自身、忙しいときにきちんと料理はできません。
ストックしてある雑穀米に、海苔、梅干し、ゴマ、味噌などをおかずに済ませてしまうこともありますし、沢山スープを作って何日か同じメニューが続くこともよくあります。
毎回の完璧を求めず、1~2週間で帳尻合わせしていくくらいで十分です。
忙しいときほどコンビニ食やインスタント食品に頼りたくなる気持ちはよくわかりますが、「栄養価の高いもので疲労物質を追い出す」、つまり「カロリーだけで栄養価の低いものは不要なものをためて余計に疲れる」ということを心にとめておいてください。
ひとの体は沢山の要素でバランスを取っていますので、これさえ食べていれば、とかこれさえ飲めばというような魔法は存在しません。偏らず色んな恵みを取り入れることが必要です。
安保徹先生は食事で心も安定し、穏やかな生活が送れると言われています。実際に怒りっぽい性格が優しい穏やかな性格に変化されたそうです。
このコラムを機に食事について改めて意識していただければと思います。
【過酷な生き方と、だらけすぎた生き方】
最後に3の生き方についてです。
近代における過酷な生き方が交感神経を優位にして過緊張に、逆にだらけた生活は副交感神経を優位にしてゆるみにつながります。このような自立神経の偏りは免疫力を大きく低下させます。
□最近の人は時間がなさすぎだ、余裕がなさすぎる。
□引きこもりが増加している
こんな2極化がみられます。やはり世の中は陰陽のバランスを取ろうと動くようですが、このような極端さは人間や社会のバランスを崩します。少しづつ中庸に寄せていく必要があると思います。忙しすぎないか、またはだらけすぎていないかを見直し、心当たりがあれば改善しましょう。
【運動、睡眠・入浴】
研究によると免疫量の低い人はシャワーだけで済ませているそうです。しっかり湯舟で温まると副交感神経が働いて血流がよくなり、芯から温まります。中医学の考えでも「冷え」は血行不良や痛みなど様々な疾患の原因になると言われています。
冷たい物の食べ過ぎに注意するだけでなく、お風呂に入って温めるようにしましょう。
また、運動不足では筋力、体力ともに低下し、血流も低下します。
運動習慣のない人が急に激しい運動を始めるのは危険ですので、ウオーキングやスクワットなどからスタートし、様子を見ながら負荷を上げていきましょう。不安な人はジムに入会したりトレーナーに相談すると自分に合ったプログラムを提案してくれます。
入浴後に軽いストレッチなどを行い、ぐっすり眠ることも重要です。
睡眠不足になると、脳のごみが捨てられないだけでなく、ホルモンのバランスが狂って食欲も乱れます。脳の司令で各臓腑が機能しますので、全力で睡眠に取り組んでください。
睡眠も、睡眠の専門家に相談できますので、お悩みのある人は相談されるといいでしょう。
いかがでしょうか?
免疫力を上げるためには呼吸、食事、姿勢など全体的に「自分の習慣を改善する」ことが近道であることはお分かりいただけましたか?
よく、「免疫力を上げる食べ物を教えてください」「お勧めのサプリ教えてください」などと質問をいただきますが、文中でも述べましたが「これさえすれば」はありませんし、人それぞれです。
「急がば回れ」という言葉のように、最初は面倒でも習慣になれば、それが普通になりますので、コツコツと取り組むことが大切です。
安保徹先生が言われた「低酸素」「低体温」を改善する3点を参考に、このご時世を元気に過ごしていただければと願っております。